冬菜かしこの「ジムと畑とボランティア」の日々

二人娘は小学生、アラフィフママのどたばたな毎日の記録。

【エッセイ】家電量販店の販売員

家電量販店が好きだ。

正確に言えば、

家電量販店の販売員の話が好きだ。

テレビでも、エアコンでも、パソコンでも。

販売員の話を聞くのが大好きなのだ。

 

きっかけは、近所のお店に入った時のこと。

平日の昼間のわりあい人の少ない時間帯に、

私はパソコンを買いに行った時に聞いた、

販売員の説明のうまさ。

そこにひき付けられたのだ。

 

当時、私は

あまり詳しくはなかったので、

そばにいた販売員にたずねてみたのだ。

 

「どのパソコンがいいか、分からないのですが」

私がそう言うと、

「どのような用途で使われますか?

それによって、得意分野が違うんですよ」

と販売員は丁寧な口調で聞いてきてくれた。

 

あまり押し付けない感じに好感を持った私は、

自分の使用用途を言い、

加えて大体の予算を言った。

それほど込み入った使い方はしないので、

最低限の機能があればいいと、付け加えた。

 

「それでしたら、これはどうでしょうか?

予算内ですし、機能もあまり多くはないです。

メーカー品ですから、安心ですよ」

私の好きなメーカーのパソコンを勧めてくれたので、

それを買おうと思った。

 

そして、買おうかな、という様子を見せたのだが、

「そんなにすぐに決めなくてもいいですよ」

と、なぜか販売員は悠長なことを言い始めた。

 

いやいや。

すでにこちらは買う気になっているのに、

なんでそんな、のん気?

と心の中で、一人で勝手につっこみを入れて、

私は買うことにした。

慌てて買わなくてもいいという姿勢だった販売員は、

こちらが買うと決めたらようやく、

その気になって買う段取りをつけてくれたのである。

 

たまたまその販売員がそうなのかと思っていたら、

どの家電量販店でも、

ちょこちょこそういう販売員がいることが分かった。

 

もちろん、売ります売りますという商売根性を前面に出して、

がんがん前のめりに押してくる販売員もどうかと思うが。

こちらが買う気になっているのにも気づかず、

のん気にかまえているのもどうかなと思う。

どうしてそんななのか、

とても不思議に思っていた。

 

そうして、ヤル気のない、

もとい、押し売りしない販売員は、

いつもそうなのかと思っていたら、

実は、そうでもないことが判明した。

週末土日や祝日などの、

人がわんさかいる時には、

様子ががらりと変わるである。

 

休日になると、平日の閑散が嘘のように、

家電量販店はお客が込み合うのだ。

そして、お客に対しての販売員の数が

絶対的に足りないので、

結果、お客は待たされる。

 

そういう状況ならば、

販売員は余計な無駄口をたたいている暇はないので、

つぎつぎとお客に説明をしては、

さっさと売っていくのだ。

平日ののん気なやる気のなさはどこへやら。

そこはもう、てきぱきと、

余計な時間などとらない、

しっかりとした販売場になるのである。

 

そうなると人間は不思議なもので、

平日昼間の閑散とした、

ヤル気のない販売員の無駄話が、

無性に聞きたくなるのだ。

心と心を通わせる、

なんともいえない商売っ気のないおしゃべりが、

聞きたくなってしまうのだ。

勝手なものだと思うのだが、

そんなものなのだ。

 

そんなふうにして平日の閑散期に仕入れた情報はと言うと、

こんな感じである。

 

例えば、エアコン。

「エアコン買うなら、〇月がいいですよ。

新しい型が出るので、旧モデルが安くなるんです」

だそうだ。

 

例えば、テレビ。

「テレビとかは、展示品は安いけど、

ずっと店内でつけっぱなしだから、消耗しているんです。

だから展示品買うなら、白物家電

冷蔵庫も洗濯機も、使っていないから、

新品同様ですよ」

だそうだ。

 

例えば、

「パソコンはエアコンとは時期が違うから、型落ち品がほしいなら、

◇月なら安くなりますよ。

我慢できるなら、その方がおすすめです」

だそうだ。

 

「そんな手の内を知らせたら、

商売あがったりなんじゃないの?」

そんな風に思うのだが、

全く悪びれる様子もなく教えてくれるのだ。

一度、それとなく、

「そんなこと、教えてくれていいんですか?」

と聞いたことがある。

販売員は、けらけらと笑い、

「いいの、いいの」

と言っていたのである。

 

「ここだけの話」

のつもりで私に教えてくれたんだろうな、と思う。

けれど根っからの、サービス精神旺盛な私は、

どうしても黙ってはいられない。

「ここだけ」が増殖してしまうのだ。

 

この情報を誰かれ構わず、

機会があれば何度も言って回っている。

そうして、話した相手から、

「そうなんだー。よく知っているねー。ありがとうー」

と感謝されて、まんざらでもない気になるのだ。

それがとても気持ちがいい。

 

別に自分が調べたわけでも、

見つけたわけでもないくせに、

さも自分の情報のように

ぺらぺらと話していくのである。

 

そしていつも、家電量販店では、

「新しい発見や情報はないか?」

とウキウキしている。

誰かが情報を持ってきてくれないかと、

わくわくしている。

 

だから今でも変わらず、

家電量販店が好きなのだ。

そのために、いつも、

販売員と話すチャンスを探しているのである。