二人娘がともに療育の日、
朝の9時半には家を出かけたのだ。
さてさて。
残ったのは主人と私。
それぞれぼんやり過ごしていたのだが、
庭に出ていた主人が駆け寄ってきて、
「お昼ご飯、外食しない?」と提案してきた。
数日前からそれらしきことを言っていたので、
やっぱり行きたいのねと思い、
「いいよ」と返事をすると、
「A店は、どう?」と聞いてきた。
「前から行きたいって言っていて、
でも、子供たちの予定がいろいろ入って、
なかなか行けなかったから」
と私の以前からの提案のフレンチのお店を提案してくれた。
出来ることなら、最初は家族4人でわくわくしながら、
初めてのお店を楽しみたい。
だから、
「うーん、子供たちと行きたい」
と言ってみた。
「子供たちと一緒に行く前に下見として行ったらどう?」
を主人がくいさがるので、
そこでようやく、自分が行きたいのだな、と気づいた。
もちろん最初は私のためを思って考えたお店だと思う。
子供の予定がいろいろ入ってきて、なかなか行けなかったのも事実。
でも次第に主人自身がそのお店に興味を持ってしまい、
行きたくなったのだと思った。
それでもやはり私がしぶっていると、
別案として、「じゃあ、おばんざいのB店はどう?」と
譲歩してくれた。
このお店も私が興味を持って、
「いつか、行きたい」と言っていたお店。
お惣菜のお店なので子供はあまり好きじゃないかもしれないので、
主人と二人で行きたいと思っていたお店です。
すかさず「B店がいいね」と言って、
お昼のお店が決まった。
少々、テンションが落ちたような主人。
それでも私はこの決定に満足していた。
でも。
ふと、気が付いた。
最近、仕事が忙しくてばたばたしていて、
職場で緊張感を持って働いている、と言っていた主人。
新しいお店周りが好きな主人。
鶏のから揚げが好きな、お肉大好きな主人。
どこからどうみても、今日行きたいのは、A店のはずな。
ここ数日は疲労の為、ちょっと怒りっぽくなったいた主人の気持ちを、
ないがしろにしていいのだろうか?
結局。
「やっぱり、A店がいいんじゃない?
あなたの提案は、わりと勘がいいことが多いから、
そっちのお店の方がいいんじゃないかな?」
そう言って、フレンチのA店に行くことにした。
相手を説き伏せて自分を通しても、
あまりいいことにならないような気がしたのだ。
電話で12時30分に予約をして、いざお店に行くと、
小さな建物の小さな店内に、
たくさんの人がいらっしゃった。
テーブルは5つ、カウンターは5席、
ほぼほぼ埋まっていて、店内はおしゃべりな女性の声で、
ずっと、わいのわいのしていた。
何がそんなに面白いのか笑い声が絶えず、
何をしゃべることがあるのか、
一向に会話が途切れることもなく、
ずっと、ずうっと、にぎやかに、
心地よいうるささに包まれていた。
キッチンはオープンだったので、
料理をする音も混ざっていたと思う。
小さな店内の音楽も一応聞こえている。
それでもそれを超えて、
女性客のにぎやかさが圧倒的な熱量を持って、
店内をあたたかくしていた。
「ああ、今このお店にいる人達は、
このお店が好きなんだな。
だから、こんなにも、リラックスしているんだな」
そんな風に見えたのだ。
それがとても心地よく、
なんだか気分が良かったのだ。
最初に出てきたアラカルトは、
小さな一口サイズのお料理の盛り合わせで、
生ハムやマリネやパンやサラダが並んでいた。
どれを食べてもとてもおいしく、
お手頃ランチでこんなにでしてもいいの?
と、こちらが心配するクオリティ。
次にでてきたスープのしっかりとした濃厚スープで、
中心にある生クリームもあいまって、
とてもおいしかった。
メインの鶏肉のクリームには、
少々濃い味付けだったが、
鶏肉が柔らかく、かたわらの温野菜もほどよい蒸しかげんで、
量もしっかりあったので、
お腹いっぱいになった。
最後のデザートのチーズタルト、カシスアイス、も甘すぎず食べやすく、
コーヒーはブラックが苦手な私も思わずブラックでいただくほど
のど越しの良いおいしさだった。
主人と二人して、ランチコースを堪能し、
さあお会計と言う時、主人が財布を出したので、
それを制して「私のおごりで」と言って、支払いをした。
少し驚いたようでしたが、やはりうれしかったようで、
主人は少々機嫌が良かったように思う。
今の私は専業主婦で、
大体考えることの大半は「節約」のこと。
何をどう節約するや、何をどう我慢するか、何をどう自分でやるか。
そんなことをよく考えている。
でも最近は少々変わってきていて。
「まあ、いっか」という時も増えてきた。
あまりにもそればかりだと、息苦しいということに、
自分で気づいてしまったのだ。
だから今日も私のおごりと、決めた。
それで主人が喜ぶなら、安いものだ。
少々のことで大切なものを失う前に、
少々のことは、少々のことだと、
気づくことが大切だと思ったのだ。
無駄遣いはもってのほか。
それはよーく分かっている。
でも、それを分かった上で、
無駄ではない何かのためにお金を使う。
それはきっと、大切なことなのだと思うのだ。
節約に疲れたら、
「金は天下のまわりもの」
だということを、
思い出すことにしようと思っている。