先日の事。
ジムのスタジオに入ると、
いつも親切にしてくれる優しいおばちゃんが、
ちょっとあせったようにして近づいてきた。
「辞めたのかと思ったよー」
そう言って、私の顔を確認したあと、
安心したような表情をしていた。
どうやら私が小学生の二人娘の冬休み中に、
ジムを長期休みしていたために、
辞めたと誤解してしまったようだった。
「ほかの人がね。
いつも本を読んでいる子(私の事)、
この頃見ないね。辞めたのかな。
と、言っていて。
私もやめたのかと思って」
おばちゃんの周りの人が、
私が辞めた説をとなえたために、
おばちゃんがあせったようだった。
「子供が冬休みだから、休んでいただけですよ。
夏休みも、冬休みも、春休みも。
学校の長期休暇の時は、いつもジムを休むんです」
と説明すると、
「ああ」と安堵した顔をして、
なんだか柔らかい表情になった。
ひとまず事情を分かってもらえたので、
私の方も安堵した。
それにしても。
毎日一人でジムに行って、
スタジオでエアロをやって、
ささっと帰宅する地味な私。
たまに挨拶をされれば、
「こんにちは」というくらい。
優しいおばちゃんとは、
たまに世間話をすることもあるけれど、
それもめったにないこと。
誰ともしゃべらず、
誰とも挨拶もせず。
そんな日の方が多い、
このうえなく地味な、私のジム生活。
それなのに。
こんな風に、たかだか私のジム通いがなくなるだけで、
心を揺さぶられる人がいるだなんて、
どうして想像できるだろう。
私がジムを辞めたところで、
誰一人気づかないだろう、
とさえ思える影の薄さなのに。
むしろそれを当たり前にしている私なのに。
一人でジムをして。
一人で帰宅する。
その繰り返しの毎日の中で、
いつしか誰かの心に、
私の存在がしっかりと刻まれるだなんて。
ああ。
分っからないもんだなあ、人の心って。
どうして私のことなんて、気にしてくれるんだろう。
どうでもいい存在のはずなのに。
むしろ「どうでもいい存在」であろうとしていたのに。
優しいおばちゃんが、「辞めたこと思ったー」と、
あせったような顔をして言って、
「辞めていませんよ」と私が言った後、
おばちゃんがほっとしたような安堵の顔をするから、
何だか私までほっこりしてしまって、
エアロにも気合が入ってしまったじゃないかあああ。
ちぇっ。
柄にもなく。ですよ。
そういえば年末に、ジムの別のジムのおばちゃんが、
小さなチョコをプレゼントしてくれたっけ。
通信販売で大袋で販売していた赤い包みのそのチョコは、
小さな包みに数種類のチョコがいくつか入っていて、
とてもおいしかった。
ジムの更衣室でみんなに配っていたようで、
そのおすそわけで私にも、
おこぼれがきたようだったが。
その時も、ちょっとだけ、
胸があたたかくなったっけ。
後日「チョコレートありがとうございました。おいしかったです」
と伝えると、満面の笑みで、にっかりと笑って下さった。
にっこり、ではなく、にっかり、だった。
それがとても素朴で、うれしかったのよね。
なんでもない小さな交流なのに、
今でもその時を思い出すと、
胸の中が暖かくなるから不思議。
小さな、小さな、できごとなのに。
3年前。
ジムに行き始めてから、基本的には一人。
一人で行って、一人で帰って、
勝手気ままなジム生活を謳歌している。
誰かに気を使い、誰かに気を遣われ、
などということもなく、
ぼんやりと時を過ごして、
自由気ままにしている。
自由と言えば、格好がいいけれど、
時にさみしさが横切る時もある。
でもそれは仕方がないことだと、
割り切ってやっている。
いつもはそんな感じなのだ。
でも、たまに。
こんな風に優しいおばちゃんやら、
チョコのおばちゃんやらに、
親切にされちゃうと、
なんだかいろいろ背伸びして無理をしている自分が、
なんなんだろうかと、
思えてきてしまう。
私は何に対して、格好をつけているのだろう、と。
一人ジムはさみしくないやい、
気ままで自由で素敵なんだい。
そう頭の中で思えば思うほど、
なんだかうそっぽい気がしてきて、
無理をしている自分がしんどくなっていくのだ。
ああ、そうか。
私は一人ジムを気ままに楽しむといいつつ、
まるっきりのひとりっきりには、
なりたくなかったんだなと、
ほんの少しだけ、気づいたのかもしれない。
所詮、格好つけたところで、
あんがい平凡に、
「たまには誰かとおしゃべりしたい」
なんて思っていたのかもしれない。
昨日、そんなことを思っていたら、
今日は、なんだかいつもより多くの人が、
「おはよう」と声をかけてくれた。
気のせいかもしれない。
気のせいじゃないのかもしれない。
どっちにしても、一つ言えるのは、
それがとても楽しいという事。
なんだ、一人ジムと言いつつ、
なんだかんだで、おばちゃんたちとのゆるい交流を
楽しんでいるんじゃないか。
私って、やつは。
私って、やつはもう。
めんどくさい事この上ない。
それでもそんな自分と、これからも付き合っていかなくてはいけないのだ。
仕方ないよね、それが自分だから。
明日からもぼちぼちと、一人ジムをしていく。
半分あきれながら。
半分楽しみながら。